対談イベントログ:「人のDxを笑うな」及川卓也x海部美知

connpassで偶然見つけた及川卓也さんの対談会に参加してきた際のログです。

講演者は及川卓也さんと海部美知さんとなっていましたが、この対談会を支援しているGNUS(ヌース)というフリーランスエンジニアネットワークを活用したソフトウェア開発企業のCEOである文分邦彦さんからもGNUSの取り組みの紹介がなされた。

本記事はこの対談会を聞いているときに取ったログとなります。

対談会は大きく次の4つのセクションに分かれていました。

  1. 海部美知さん:アメリカでの「DX的な取り組みの実情」
  2. 文分邦彦さん:GNUSの取り組みの紹介
  3. 及川卓也さんと海部美知さん:「DX」という取り組みの在り方
  4. Beer Bust

ここでは1~3に関するログを掲載します。 聴きながら目盛った意訳的な速記をすこし整形した位のモノなので、本当に対談で使われた表現とは違う場合があります。 また速記のため読みにくさはご容赦ください。

※ 対談イベントのタイトルはとある小説/映画の引用になりますが一応伏せときます。キャッチ―さって大事よねというくらいのもんです。またこの会自体はまったくネガティブなものではなく、終始面白い・考えさせられる話ばかりでした。

海部美知さん:アメリカでの「DX的な取り組みの実情」

海部美知さんは経営コンサル@シリコンバレー

アメリカでGigsterというフリーランスエンジニアネットワークを形成してSW開発を行う企業を手伝っている。 GNUSは、日本でGigster流のエンジニア開発をやろうとしているスタートアップ企業。

なぜ今回「DX」に注目した話をするに至ったかシリコンバレーのコンサル仲間のゆきちゃんから「DXって言葉」が日本ではやってるらしいというタレコミから、DXなにそれ、知らない、と思って調べたり考えたりしたことから。

また、関連して及川さんとTwitter上でDXに失敗した企業について色々Disったりしてた経緯から、ちゃんと話してみようということになった。

なぜシリコンバレーで「DX」という言葉を聞かないのか、既にデジタル化しているから

またアメリカではSW技術製品を売りにしていても個別のプロダクトとして売り文句を作るので、DXみたいなふんわりした言い方はしない

要するに、進んでいる会社は使わない、メディアなどが持ち上げている言葉

DXよくわからん → 何をデジタル化するのかがあいまいだから

DXで何かを達成するためには,、必ず何かを捨てる/犠牲にすることになる

例えば 効率化が進めば人がいらなくなるなど、本気でやればやるほど犠牲は避けられない

経営としての問題/課題であり、DXのやり方の問題ではない

DXの70%失敗するというマッキンゼーのレポートもある それは経営が腹をくくれていなかったから

DX失敗例:Hertz 今年ニュースになった 社内の開発部門を首にしてコスト削減したぜ 開発力をなくしたうえでアクセンチュアの部隊でデジタル化を進めようとしたが全然うまくいかない 結果としてアクセンチュアを提訴するに至った

アメリカのDXの現状 GAFAへの対抗策としてのサバイバル戦略として本気で取り組んでいる

積極的なのは次の分野 - 流通小売り事業 - 金融事業

先進事例:Walmart / WalmartLabs 小売り大手のWalmartは、2011年にシリコンバレーベンチャーを買収してWalmartLabsを作った

最初は田舎でダサい会社には生きたくないという風潮からなかなかエンジニアが増えなかった 社長がエンジニアを直接口説くなど、地道に投資を続けた結果、現在6000人

先進事例:ゴールドマンサックス リーマンショック後に、それまでのホールセールスオンリーからリテール部門の強化も始めた Appleカードの裏側を作っているのも実はゴールドマンサックス

「内製化/DevOps/アジャイル/マイクロ」がポイント@アメリカ :日本はちょっと違うポイけどーという発言あり

~質問タイム~

Q WalmartLabの6000人はエンジニアなのか?本体企業とつながらないとDXは難しいと思うのだが?

A 詳しいことはわからないがほぼエンジニアだと思う。そこをどう使うかを経営側が考えているのだろう。 (会ったことある感じだとインド人が多い印象)

Q 日本はDXが進むと技術力のない老人が排除されることになる(はずだけど、できない)という問題のはどう考えるか

A 答えはない、ドライに言えば切り捨てるしかない。年寄の仕事は別の形を与えるなどを考えるなどが必要。

アメリカはレイオフでバッサリ切ることができるし、なんだかんだ独立してコンサルやったりするなど自分で動く風潮もある。ただどのみち厳しい世界ではある。

文分邦彦さん:GNUS(ヌース)の取り組みの紹介

GNUSは、日本でGigster流のエンジニア企業をやろうとしているスタートアップ企業。

文分邦彦さんは、電通 → 新規事業(社内スタートアップ) → アメリカDXコンサル → 日本でGNUS設立

アメリカでDXコンサルをやっているときに、海部さんが支援しているGigstarを活用したら凄かったので、そのやり方を日本に持ち込もうとしている。

DXはアメリカでもコンサルが焚き付けてもリソース不足や組織間の壁などによりなかなか実行に移せていないのが現状。

Gigstarは、数名で100プロジェクトを回したことが評価されて32Mの投資を受けるに至り、現在トップレベフリーランスが600人登録している企業。

アメリカはフリーランス大国 リモート当たり前の文化もフットワークの軽さに寄与している

フリーランスネットワークというものをつくり 要求に最適なチームを組んで仕事を斡旋する 斡旋といっても常駐派遣はやっていない、リモートワーク前提。 だからこそGeekで強いエンジニアに全力で働いてもらえている。

斡旋されたエンジニアはSWを作って納品するまでを責務としてやっていく というのがGigstarのビジネスモデル

エンジニアの良より質を重視している。本当の意味でトップレベルのエンジニアをネットワーキングしている。

GNUSはこの日本版として2019/7から営業を開始

開発の契約は半年から1年くらいが多い感じ

~質問タイム~

Q エンジニアに高額な報酬を与えるというのは広まるか

A 日本はそもそもサービス業が買いたたかれるという風潮が強い。 大企業に対するバリュー出し、コンサルティング、ビジョンで戦うしかない。 エンジニアの能力はGithubのコードを見たり、試しにコードを書いてもらうなどして実力をよくよく見る。

Q 上流人材はどっから持ってくるのか、見つけてくるのか

A フリーランスの人の中から過去の経歴などもよくよく見て探して見つけようとしている

Q プロジェクトと人のマッチングはどうやっているの 古臭い仕事へのアサインは嫌がられるのでは?

A 内部評価を付けており、評価の高い人ほど自分のやりたいプロジェクトにアサインされるようになる なので最初は仕事選択の自由度は少し低くなる

及川卓也さんと海部美知さん:「DX」という取り組みの在り方

※ 基本的に及川さんの発言をベースに記録

「DX」は実は避けていたが去年位から絡んている@デンソー:1年半くらい

<宣伝> 10月くらいに日経BPから本が出ます:「ソフトウェアファースト」というタイトル ソフトウェアだけでなく、組織改革も込みの話として書いています。

日本の大企業は動きが遅い、ソフトウェアの価値を分かっていない

もともとGoogleなどにいたが、外資に魂を売ったわけではなく、外資の目線から日本を良くしようとしたかった

スタートアップもしばらくやってやりがい/手ごたえもあったが スタートアップが頑張っても、社会が変わるのに時間がかかる

大企業を変えないと、変化のレバレッジが効かない

日本はラベルが付いた瞬間に思考停止する。予算と人を付けた、で終わってしまう。

なので「DX」という(あいまいな)言葉は嫌いだった。

重要なのは、DXの定義を作れ、ということ。ただの言葉として扱ってはいけない。 自分の言葉として語れるようになれ。浸透させないといけない。

それを自分事として考えない会社はつぶれていく。

トップが自分の言葉でDX戦略を語れなかったら死んでしまう。 語れない会社からは出た方がよい。

日本の市場でよく作っているソフトウェアはマイクロサービスにするまでもないものがほとんど。 エンジニアあるあるなのはハイスペック適用を好んでしまうことで、過度な適用にやりがち。

組織が100人を超えない限りはマイクロサービスを適用するものではない。 ソラコム、クックパッドなど先進のソフトウェア企業がやってきた経験からみんな言っている。

DXの分かりやすいイメージ ゲータレードがサブスクで売り始めた、スポーツチームにロットで売るという商売それをSWで支援している。 これまでと違うロジックをSWを使って推し進めるのがDX。

デンソーのDXってどういうもの 内製化。内製化ではないのにDXというのは意味が分からない。 ただし、100%内製化しろというわけではない。

DXがイケている企業かどうかを見極めるポイント 中途でSW人材を採用しているか、採用ページがイケてるか ベンダーコントロールとかではない作る人として採用しいるか

オープンソースを利用する というのは外部リソースを活用している/アウトソースしているとも言える

オープンソースにコントリビュートすることは、丸投げではなく自分でコントロールするという意味でもある ★ここまでやれることで広い意味での内製化といえる

製造業のDX HW、組み込みは技術部分も自分でやっていた、コネクテッド(IoT技術)は専門家に出すことが多いが、それを自分でコントロールしているか居ないかで、DXを進められる企業とそうでない企業に分かれていく(★の理論)

Hartzの何が悪かったのか、丸投げ思考

及川さんはIT業界のチコちゃん(自称)

DXに向かうには、トップが覚悟を決めるのはもちろんだが、社内も同じ方向を向いてもらうように努力することが重要

文化を変えないといけない

DX=デジタル+変革 と捉えると

デジタル まず、デジタル文化を根付かせる/デジタルの価値を知る必要がある アナログじゃなく、デジタル情報を使いましょう、社長から末端まで、全員が。

変革 デジタルができた上での、事業のトランスフォーメーション

ヤマト運輸 大切にしているのは、エイリアンとミュータントの存在 エイリアン・・・外部からの中途人材 ミュータント・・・社内の異端者

IT人材を「育成」という表現自体が自分のこととして考えていない証拠

ITのリテラシーはマッスルメモリーだ、触ってないから怖がっている、上から下まで全員触ることが重要

厚生労働省の若手が出した資料 プレゼン版
厚生労働省の若手が出した資料 文書版
IT活用、人事評価制度を変える話まで書いてある。必読。

経産省のDXレポート(IDC)2025年の壁 SIerのえらいさんが調査・編集?に関わってるので、最初は脱SIのようなトーンで始まっているに最後に今後のSIとはというオチになっている。残念。中身は良いから最後のページ以外を読むと良い。

SIがどうDXやるの 富士通の取り組みなど、最終的には自分の首を締める取り組みではと見えるが、どうなんだろう。

アメリカではあまりSIがどう頑張っているのかは聞かない。 本気でやっているところはユーザー企業が自分でやっている。

アクセンチュアがかっさらうので残っているのは小さいパイしかないから話になりにくいのかも。

~質問タイム~

Q スクラムをやっていて、最初はWebツールなどを活用していたが開発者が使いにくいということから付箋などのアナログになってしまった。これはデジタルでないと思うのだが。

A スクラム開発はデジタル派とアナログ派に分かれる

デジタルを使うのはリモートでやる場合は鉄板(というか使わないとどうしようもない)だけど カンバンボードのようなものアナログのほうが親和性が高い あの手のやり方は、手法・考え方に「デジタルの仕組み・表現力」が追い付いていないと考える。

使っているツールがアナログだろうがデジタルだろうが、自分で考えて適切なやり方を選べているかが重要なのです。 ツールを使うことがデジタルである証明ではない。

Q GEが失敗した理由

A まず、成功事例としてのWalmartは、Labsの設立から発展まであきらめずに投資し続けて今がある。

GEは本業が悪くて投資が続けられなかったため、過去の負債が影響して失敗した。

GEの進め方について、実はやるべきこと(=本に書いてあるような教科書的に正しいやり方)を全部やっている 育成などに向けてリーンスタートアップの提唱者エリック・リースやアジャイルの指導にPivotal Labsを活用するなどそれ自体はよいアプローチだった。 GEが投資しきれなかったのは人材、トップ人材を雇えなかったことが敗因。 中途半端な力量の人材を大量に採用してしまったのが失敗に繋がっている。

また「やるべきことをやっている」というのが「本気でやっていたか」かというのもポイントだった。 内部でやっていた人の声を調べると、形式はあるが、実態はできていないということが多かったようだ。

スクラムやデザイン思考も必須なものではない、必要だったら使う手段だ。 綺麗な方法論よりも「文化として根付いていること」が重要。 事業を考える場合にソフトウェアを軸に考えましょう。

余談

connpassで量子コンピュータのハンズオンがあるよ。と宣伝されていた方がいらっしゃった。 これかな?

それにしても、前日に偶然見つけて申し込んだけどとても考えることが増えて楽しい会だったなあ。